第７回亡き夫からの助言

長く連れ添った仲のよいご夫婦の場合、ご主人さまや奥さまに先立たれてしまうと、生きる気力を失ってしまわれ、痛ましい状態になるケースがあります。今回のご相談者の咲子さん（仮名）も愛するご主人に先立たれたばかりか、ご子息さまご夫婦との関係にも亀裂が入るという事態に陥っておられ、気落ちから、「どうしても主人に再会したい」と王寺院のわたくしにお電話でご依頼して来られたのです。

咲子さんとご主人さまは仲睦まじいご夫婦として近隣でも評判になるほどで、周囲の主婦の方々からもうらやましがられていたそうです。ご子息がご結婚され、お孫さんが出来ても、咲子さんにとっていちばん大切なのはご主人さまで、とにかくご主人さまご優先の生活を送っていたとのことでした。

しかし、ご主人さまは3年前交通事故に遭われ、あっけなくこの世を去ってしまわれました。残された咲子さんは悲しみに暮れる日々を送っていましたが、ご子息さまのご家族がひんぱんに会いに来てくださるようになり、1年後にはだいぶ明るさを取り戻されたそうです。

しかし、次第にご子息さまご夫妻は咲子さんから距離を取るようになられ、最近ではほとんど連絡をよこさなくなったとのこと。咲子さんは再び悲しみの淵に沈み、やさしかったご主人にもう一度会いたいと思うようになったのでした。

わたくしがご主人を口寄せさせていただくと、ご主人はすぐに咲子さんへのお礼と、気遣いのことばをかけられ、咲子さんはうれしさに電話の向こうで号泣されました。しかし、しばしの間を置いて、ご主人は、「よくぞ呼んでくれた。どうしても伝えたいことがある」と切り出されたのです。

「咲子はほんとうにすばらしい奥さんだったけれど、歳を重ねたいま、少し独善的になっていてひとさまへの要求度が高くなってしまっているんだよ。いくら息子の嫁とはいえ、千晶さん（仮名）はじつの娘ではないからね。あまり細かく生活に立ち入ったもの言いをしたら、非常にわずらわしく感じるし、傷付いてしまうよ。干渉し過ぎたことを詫びて、またなかよくしてくださいと、頼んでみてほしい。そうしたら楽しい毎日が戻ってくるから」。

口寄せを終えて、咲子さんは涙ながらに、「孫はもちろんですが、嫁もほんとうにかわいくて、よかれと思ってアドバイスをたくさんしたつもりが、負担をかけていたんですね。主人のことばにしたがって、近々におわびの電話をします。今後は気を付けたいです」とおっしゃいました。

そのとき、わたしの脳裏に大勢でニコニコと楽しそうに踊る女性たちが咲子さんに手招きをされている映像が浮かんだのです。「咲子さん、一駅ほど離れた土地に、ダンスのお教室がオープンしたようですよ。そちらに通われると、よいおともだちがたくさんできます」と、お伝えしました。

ほどなくして咲子さんからごていねいにもお礼のご連絡をいただいたのですが、息子さんご夫妻と和解され、交流が再開したことがわかりました。そして、調べてみるととなりの駅近くにフラダンス教室ができており、そちらにも通い始めたところ、先生も生徒さんもよい方ばかりで、おともだちも増え、みなさんと楽しく踊っていますというご報告も受けたのです。

お教室の様子を見に来られたお嫁さんと幼稚園に通う孫娘さんもすっかりフラに魅了され、いまでは親子三代でお教室に通われており、フラを介してますます関係が良好になったとのこと。亡くなられたご主人さまはいまも咲子さんを愛し、守ってくださっていたこと、わたしもそのお手伝いができたことをうれしく思った次第です。

※咲子さんには、掲載にあたりご協力いただきましたことを心より感謝いたします。また、お名前は仮名とさせていただきましたのでご了承ください。