第６回元先輩の口寄せ

全ての人は、この世に生を受けて様々な人と出逢い、触れ合い、そして経験を経て様々な人と別れていきます。幼馴染、小学校のクラスメイト、習い事で一緒だった顔見知りの子供、中学校や高校の部活仲間、大学のサークルの人達、そして社会に出て働いた先で知り合う数々の人々…。環境の変化と共に自然と離れ離れになったり、環境が変わっても変わらず付き合いが続いたり、様々です。そして、もう会うことはない相手でも感謝の気持ちを忘れないものです。

今回のご依頼者は静夏さんという女性の方。現在は二児の母として専業主婦をされているそうです。そんな静夏さんが口寄せを希望したのは、新卒で就職した会社の元先輩。なんでも最近自殺をしたとのことで、知らせを受けた静夏さんは大変ショックを受けました。元先輩はとても明るく頼り甲斐のある性格で、女性からの人気も高く、自ら命を絶つタイプには決して見えなかったそうです。静夏さんが結婚する時も披露宴に来てくれてお祝いをしてくれました。最近はやりとりがなかったので、何か大変なことがあったのだろうか…と共通の知人たちに聞いてみたところ「前日まで全然変わらない様子だった」と言われました。

元先輩がどうしても自ら命を絶つとは思えない。先輩がどうしてそんなことをしたのか知りたい。そう思った静夏さんは、悩みに悩んだ挙句、イタコ霊能者が電話で霊降ろしをするという王寺院に依頼。元先輩の霊を降ろしてもらいました。その魂はすぐ呼びかけに応じ、私の中に入ってきました。そして、入ってきた瞬間、深い孤独と絶望が心一杯に広がり、依り代となった私は思わず泣いてしまいました。

彼は一見明るく、頼もしく皆に好かれていましたが、本当はどちらかというと気弱で、休みの日はずっと家に引きこもっていたようです。人気者でしたので女性から告白されることも少なくありませんでしたが、彼の素の性格を知ってしまうと皆ギャップに耐え切れず、離れていってしまったそうです。無理して社会で明るく振る舞い続けているうちに、彼は精神を病み、心療内科に通うことになりました。しかし、心の状態はどんどん悪くなり、ついにある朝、電車に乗れなくなってしまったそうです。「もう皆の求める自分ではいられない」そう思った彼は一人で思いつめ、近くにあるビルの屋上から飛び降りてしまいました。

「誰か本当の俺を受け入れて欲しかった！」

そう訴えかける彼の魂を私は宥めました。

「あなたはとても責任感が強く真面目な人。そして皆を大事にする人です。よく頑張りましたね。あなたは頑張りました。無念を残さず来世へ旅立ちなさい。そして今度こそ自分の本当の使命を全うするのです。弱い自分を隠さずに皆を信じること。それが次のあなたの使命です」

私はそう言って、不浄霊化しかけた彼を浄化し、霊界に送り出しました。

顛末を報告した静夏さんはとてもショックを受けていました。

「そうですか…私の目には頼りがいのある先輩にしか見えていませんでした。私たちが彼の弱い部分をもっと分かってあげられれば…」そう後悔の涙を流す静夏さんに、「違います。彼が周りの人達を大事にし過ぎるあまり、自分の弱さを隠し、一人で背負い込んでしまったのです。あなたが自分を責める必要はありません」と強めの口調で言いました。彼はもっと周りに弱さを見せるべきだったのです。彼は来世でふたたび同じ使命を課せられるでしょう。残された静夏さんたちにできることは、彼の魂が安らかに霊界に旅立ち、来世で今度こそ使命を全うできるように、祈ること。それを丁寧に告げると、静夏さんは静かに納得され、鑑定は終了しました。

※静香さんには、掲載にあたりご協力いただきましたことを心より感謝いたします。また、お名前は仮名とさせていただきましたのでご了承ください。