第２回生き別れた姉の口寄せ

夕暮れ時はこの世とあの世の境界線があいまいになる時間帯。昔から「逢魔時」と呼ばれ、魔物や霊が現れやすくなる時として認知されてきました。そんなある日の夕刻、電話占い王寺院の専属占い師である私のもとに、一件の電話鑑定依頼が舞い込みました。

依頼主は香奈枝さんという女性の方。鑑定開始直後に霊感を働かせてご依頼者の状況を霊視したところ、どうやら独身の方で、ご自宅からお電話を掛けられているご様子でした。

そして、どうやら最近、近しいご親族の死に目に遭われたご様子で、その波動からうっすらと死者霊の匂いが漂っておりました。この方は恋愛相談や人生相談ではなく霊降ろしを希望されている。すぐにそう察することが出来ました。

「霊降ろしをご希望ですね。降ろすお相手の方は近しいご親族の方……実のお姉さまでよろしいでしょうか」

霊感で読み取った事柄を率直に告げると、香奈枝さんは少々驚いた様子を浮かべた後、「言わなくても分かるんですね。その通りです。先ほど葬儀から帰ってきたばかりで……」と、身の上を話して下さいました。

私には、香奈枝さんの身に何が起こったかが全て流れ込んできていましたが、香奈枝さん自ら話されたいご様子でしたので、その言葉に耳を傾けることにしました。

「姉と最後に話したのはもう10年近く前のことです。喧嘩別れでした。幼い頃はとても仲が良かったんです。でも思春期に差しかかる頃からお互いの感情がぶつかりあうようになってしまって。それで、姉が実家を出る時に、ちょっとしたことで大喧嘩をしてしまい、それっきり。先日、そんな姉が病死したという知らせを聞きました。久しぶりに見た姉は眠っているようでした。その姿を見ていたら、私、もう一度ちゃんと姉と話せばよかったって……」

嗚咽混じりでそう説明して下さった香奈枝さん。その後悔の念は言葉以上に霊感で痛いほど伝わってきていました。

人の運命とは数奇なもので、ほんのちょっとした喧嘩が今生の別れとなってしまうこともあります。しかし、私には分かりました。香奈枝さんの実のお姉さまは今、霊体となって香奈枝さんのそばにいらっしゃいます。そして、お姉さまも香奈枝さんと「もう一度お話したかった」と思っています。

私はイタコの秘術を用いて、お姉さまの霊体に語りかけました。私の身体を依り代として、もう一度妹さんとお話されてみてはいかがでしょうか、と……。

お姉さまの霊体はその意図を察してすぐに私の中に入ってきました。私は自らの意識の大部分を片隅に押しやり、お姉さまの霊体に一時的に身体をお貸しすることにしました。

「カナちゃん……」

そう語りかける口調も、愛称も、すべて紛れもないお姉さまのものだった。香奈枝さんはそう後で話して下さいました。

「カナちゃんごめんね、私は本当はあなたと仲直りしたかった。ずっとあの日を後悔していたのよ」

「お姉ちゃん、私もそうだった。本当にごめんね」

「もう一度話せてよかった。私はずっとあなたを見守っているわ。私の分もあなたが幸せになるのよ」

「お姉ちゃん……ありがとう」

たった数分のやりとり。しかし10年の断絶を、生と死の境目を埋めた瞬間でした。そして、お姉さまはすぐに私の身体から離れていきました。
人の魂は死後四十九日が過ぎた後、あの世に帰っていきます。お姉さまがお亡くなりになったのはほんの数日前ですので、魂はあの世に戻らず、香奈枝さんのすぐそばに戻っていきました。

その夕暮れ時の鑑定から3ヶ月ほど経った頃、香奈枝さんからお礼のお手紙をいただきました。霊降ろしでお姉さまと話せたことへの感謝と、その後の近況報告が綴られていました。あの鑑定以降、不思議な幸運にいくつも恵まれ、仕事で良いことが起きたり、また素敵な男性と知り合ったりもしたようです。そして今はその方とお付き合いをしている、とのことでした。きっとお姉さまはもうあの世に帰られたはずですが、「私の分も幸せになるのよ」という言葉通り、四十九日の間、香奈枝さんのそばで、さまざまな幸運を引き起こしていったようです。「本当にありがとうございました。姉のことも、あの日のことも一生忘れません」手紙の最後にはそう記されていました。

※香奈枝さんには、掲載にあたりご協力いただきましたことを心より感謝いたします。また、お名前は仮名とさせていただきましたのでご了承ください。